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大阪地方裁判所 昭和42年(ワ)7395号 判決

原告

川端明

ほか二名

被告

株式会社寅松組

ほか一名

主文

一、被告らは各自原告川端明に対し金一、〇五六、七六一円および内金九〇六、七六一円に対する被告株式会社寅松組は昭和四三年一月三〇日、被告高砂政夫は同年一月二八日から、それぞれ、支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二、原告川端明のその余の請求および原告川端チヅルならびに原告大石輝好の請求を棄却する。

三、訴訟費用は原告川端明と被告らとの間に生じた分は三分しその二を原告川端明の、その余を被告らの各負担とし、原告川端チヅルおよび原告大石輝好と被告らの間に生じた分は原告川端チヅルと原告大石輝好の負担とする。

四、この判決第一項は仮りに執行することができる。

五、ただし、被告ら各自において、原告川端明に対し金八〇〇、〇〇〇円の担保を供するときは、その者に対する仮執行を各免れることができる。

事実及び理由

第一申立

(原告ら)

一、被告らは連帯して、

(1) 原告川端明に対し金七、〇〇〇、〇〇〇円、および内金六、六〇六、八六九円に対する被告株式会社寅松組は昭和四三年一月三〇日、被告高砂は同年一月二八日から、それぞれ支払ずみまで年五分の割合による金員を、

(2) 原告川端チヅルに対し金一、〇〇〇、〇〇〇円、および内金九五六、九三六円に対する被告株式会社寅松組は昭和四三年一月三〇日、被告高砂は同年一月二八日から、それぞれ支払ずみまで年五分の割合による金員を、

(3) 原告大石に対し金二〇〇、〇〇〇円、および内金一七五、四二三円に対する被告株式会社寅松組は昭和四三年一月三〇日、被告高砂は同年一月二八日から、それぞれ支払ずみまで年五分の割合による金員を、各支払え。

二、訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言。

第二争いのない事実

一、本件交通事故発生

とき 昭和四二年九月二日午前九時ごろ

ところ 大阪府北河内郡四条畷町蔀屋二五九番地先国道大阪上野四日市線上

事故車(イ) 大型特定自動車(大阪一り二五四〇号)

右運転者 被告高砂政夫

事故車(ロ) パブリカ

右運転者 原告川端明(当時三二歳)

受傷者 原告川端明

態様 西進中の(イ)車が中心線を越えて、東進中の(ロ)車と衝突した。

二、被告高砂の雇傭関係と被告株式会社寅松組(以下被告寅松組という)の(イ)車の運行供用

被告寅松組は(イ)車を保有し、被告高砂を雇傭して営業を行つていたところ、本件事故当時被告高砂は業務執行のため(イ)車を運行していた。

三、損害填補

原告明は左の如く自賠保険金合計一、一五〇、〇〇〇円の支払を受けた。

(1)  昭和四二年一二月頃五〇〇、〇〇〇円

(2)  昭和四三年四月頃六五〇、〇〇〇円

第三争点

(原告ら)

一、被告らの責任原因

(一) 被告寅松組

原告明の身体傷害による原告らの後記損害につき左記(1)または(2)、(ロ)車破損による損害につき左記(2)の理由により、右損害を賠償すべき義務がある。

(1) 根拠 自賠法三条

該当事実 第二の一および二の事実

(2) 根拠 民法七一五条一項

該当事実 第二の一、二の事実および左記(二)の事実

(二) 被告高砂

根拠 民法七〇九条

該当事実 被告高砂は、時速約八〇キロメートルで(イ)車を運転し、西進してきて本件現場附近で先行車を追い越そうとした際、対向車の有無を注意せずに道路右側部分に出た前方不注視の過失により、折から時速約四〇キロメートルで東進してきた(ロ)車に(イ)車を衝突させた。

二、損害の発生

(一) 傷害および後遺症の内容

頭部外傷Ⅳ型、顔面裂創、下顎骨ならびに上顎骨骨折、右前腕骨骨折の傷害を受け、そのため顔面の変型ならびに性格異常等の後遺症が残存する虞れがある。

(二) 治療および期間

昭和四二年九月二日から同年一〇月三一日まで六〇日間入院治療を受け、その後現在まで通院治療を受けている。

(三) 療養費

原告明は左のとおり療養費の支出を余儀なくされた。

(1) 入院治療費 五二六、八〇〇円

(2) 入院中諸雑費 六三、六八五円

(3) 通院交通費 二〇、五三〇円

(4) 白壁整形外科初診料 六、四〇〇円

(四) 運転免許証申請手数料

原告明は、本件事故のため自動車運転免許証の有効期間の更新を受けることができなかつたので、新たに運転免許証を取得しなければならなくなり、そのために手数料三、七〇〇円の支払を要した。

(五) 原告大石の人夫賃損害

原告大石は原告チヅルの父で農業を営んでいるところ、原告明の入院中昭和四二年九月三日から同年一〇月二八日まで五七日間原告明の看護のため原告大石の妻を付添わせたため、右期間中農繁期にあたり訴外山田昌枝を一日一、五〇〇円の約で雇用しなければならなくなり、同人に対し合計八五、五〇〇円を支払つたから、右同額の損害を受けた。

(六) 精神的損害(慰謝料)

(1) 原告明は前記の如き傷害を受け、後遺症が残存し、人前に出ることが苦痛で、甚大な精神的苦痛を受けたから、同原告に対する慰謝料は七、〇〇〇、〇〇〇円が相当である。

(2) 原告チヅルは原告明の妻であるところ、夫が受傷したため心痛し、今後見苦しくなつた夫の顔をみて暮さねばならなくなり、その他結婚家庭生活上いろいろの傷害を受け、多大の精神的苦痛を蒙つたから、同原告に対する慰謝料は二、〇〇〇、〇〇〇円が相当である。

(3) 原告大石は、原告チヅルが苦痛を受けたので、同原告の父として大きな精神的打撃を受けたから、原告大石に対する慰謝料は二〇〇、〇〇〇円が相当である。

(七) (ロ)車の修理代

原告明は(ロ)車を所有していたところ、本件事故により同車が破損されたため、その修理のため二七七、五八五円の損害を受けた。

(八) 弁護士費用

原告らが本訴代理人である弁護士に支払うべき費用は左のとおりである。

(1) 原告明 着手金七〇、〇〇〇円 報酬四〇〇、〇〇〇円

(2) 原告チヅル 着手金二〇、〇〇〇円 報酬七〇、〇〇〇円

(3) 原告大石 着手金一〇、〇〇〇円 報酬三〇、〇〇〇円

三、本訴請求

以上により、被告ら各自に対し、原告明は右二(三)(四)(六)(1)(七)(八)(1)の合計金八、三六八、七〇〇円の内金七、〇〇〇、〇〇〇円(右二(三)から(七)までの分六、六〇六、八六九円、同(八)(1)の分三九三、一三一円)、原告チヅルは右二(六)(2)及び(八)(2)の合計金二、〇九〇、〇〇〇円の内金一、〇〇〇、〇〇〇円(二(六)(2)の分九五六、九三六円、同(八)(2)の分四三、〇六四円)、原告大石は右二(五)(六)(3)及び(八)(3)の合計金三二五、五〇〇円の内金二〇、〇〇〇円(二(五)(六)(3)の分一七五、四二三円、同(八)(3)の分二四、五七七円)の各支払を求め、遅延損害金については、いずれも弁護士費用を除く原告明は金六、六〇六、八六九円、原告チヅルは金九五六、九三六円、原告大石は金一七五、四二三円につき、本件訴状が送達された翌日である被告寅松組に対しては昭和四三年一月三〇日、被告高砂に対しては同年一月二八日からそれぞれ支払ずみまで年五分の割合による金員の支払を求める。

四、充当

第二の三の自賠保険金はいずれも原告明の慰謝料に充当されたものである。

(被告ら)

一、本件事故は原告明の過失により生じたもので、被告高砂は無過失である。

被告高砂は時速約五〇キロメートルで本件現場附近に差しかかつた時、先行車が急停止したので、同車を追い越すため前方を十分注意して道路中央線から若干右側部分に出たもので、(ロ)車の先行車とは安全にすれ違つたところ、原告明が前方を注意せず道路中央線すれすれに走行してきたため本件事故が生じたものである。なお、(イ)車はいすず六トン積戦時型トラックであるから毎時六七キロメートル以上の速度は出すことができない。

二、弁済

被告らは原告明に対し、入院の際入院治療費五〇、〇〇〇円、その後氷代六五、〇〇〇円を支払つた。

三、充当

第二の三(1)の自賠保険金五〇〇、〇〇〇円は原告明の治療費に充当された。

四、(ロ)車の損害に対する反対主張

(ロ)車は一九六四年パブリカで事故当時既に製作後三年を経過し、走行距離三〇、〇〇〇キロメートル以上であつて、時価一一〇、〇〇〇円と評価されるものであるから、(ロ)車破損による損害は一一〇、〇〇〇円というべきである。

第四証拠〔略〕

第五争点に対する判断

一、被告らの責任原因

(一)  被告寅松組

原告明の身体傷害による同原告の後記損害につき左記(1)、(ロ)車破損による損害につき左記(2)の理由により、右損害を賠償すべき義務がある。

(1) 根拠 自賠法三条

該当事実 第二の一および二の事実

(2) 根拠 民法七一五条一項

該当事実 第二の一、二の事実および左記(二)の事実

(二)  被告高砂

根拠 民法七〇九条

該当事実 左のとおり。

(1) 本件事故の状況

〔証拠略〕を併せ判断すると、次の如き事実が認められる。

(イ) 本件現場は東西に通ずる幅員約一〇メートル余の道路で、中心線があり、中心線から北側部分の幅員は少なくとも五メートルあり、指定制限速度は毎時四〇キロメートルである。

(ロ) 原告明は(ロ)車を時速約四〇キロメートルで運転し中心線から約一メートル南側に沿つて西進してきた。

(ハ) 被告高砂は、車体幅約二メートル弱の(イ)車を時速約五〇キロメートルで運転し、中央線から約一メートル北側に沿つて東進してきて本件現場附近に差しかかつた際、五ないし七メートル前方を先行東進していた軽貨物自動車が道路左端に寄つて道路左端から一メートル位の地点に急停止したため、同車を回避しようとして直ちに右に転把し中央線を越え始めた時、初めて約一〇メートル前方に(ロ)車が対向してくるのを発見し、とつさに急停止の措置を採つたが及ばず、中央線から一メートル余南側にでた地点で(イ)車を(ロ)車に衝突させた。なお、(イ)車の幅は二メートル以内で、また、(ロ)車の直前先行車は(イ)車が中央線を越える前に(イ)車と行き違つた。

右認定に反する〔証拠略〕は前掲証拠に照らし容易に措信しがたく他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(2) 被告高砂の過失

右認定の事実に基けば、被告高砂には前方不注視等の過失がある。すなわち、(イ)車の左前方で急停止した軽貨物自動車の幅員は一・三メートルを越えない(昭和四〇年法律九六号による改正前の道路交通法三条、道路交通法施行規則二条参照)ことに照らすと、道路中央線から右軽自動車の南端まで少なくとも二・七メートルあつて、右中央線の北側路面の幅員は(イ)車の通行のため十分であつたというべきである。従つて、被告高砂が、(イ)車を運転して本件現場附近に差しかかり左前方に急停止した軽貨物自動車を回避しようとしたとき車間距離、制限速度を適当に保つておれば中央線から右に出ることなく道路左側を進行することは可能であつた。被告高砂が右回避した際折から(ロ)車が中央線から約一メートル南側に沿つて対向してきていたのであるから、対向車の有無を注意するとともに道路左側部分を走行すべきであつた。にもかかわらず、漫然と対向車の有無を十分確認せずに高速のまま中央線を越えて道路右側部分に(イ)車をはみ出させたのであるから、同被告に過失があつたことは明らかである。

二、損害の発生

(一)  傷害および後遺症の内容

原告明はその主張の如き傷害を受け、その後遺症として(1)右側上下歯の咬合状態が不良となつたため、ある程度固形食を摂取できるが、制限があつて、そしやくが十分できず、(2)右頬骨がでて右頬部がふくれているため顔形が著しく不均整となつており、(3)寒い時および雨天の時に顔面神経痛が生じる。(〔証拠略〕)

(二)  治療および期間

昭和四二年九月二日から同年一〇月三一日まで六〇日間入院治療を受け、その後昭和四三年八月三一日まで通院治療を受けた。(〔証拠略〕)

(三)  療養費

原告明は左のとおり療養費の支出を余儀なくされた。

(1) 入院治療費 五二六、八〇〇円 (〔証拠略〕)

(2) 入院中諸雑費

〔証拠略〕によると、入院雑費として、付添、見舞人の食事代まで含まれていて本件事故による損害として認めがたいものがあるのでこれを除外したうえで、右書証を考慮し、さらに原告明の前記傷害の部位、程度、入院期間に照らすと、入院中日用品購入費、雑費、補食費として少くとも一日五〇〇円宛を要したものと認めるのが相当である。従つて、前記六〇日の入院期間中合計三〇、〇〇〇円の損害を受けたものと認められる。

(3) 通院交通費

原告明は、前記入院中身の廻り品の運搬等のため、事故当日から昭和四二年九月一四日までの間に一六回、その後同年一〇月二八日までに一九回家族をタクシーで通院させることを余儀なくされたものと認めるのが相当であり、退院後同原告の治療のため同年一二月二一日までタクシーにより生井病院へ、同年一二月中、国鉄により宮田接骨院へ通院を要し、以上の通院交通費として少なくとも合計二〇、五三〇円を下らない損害を受けたものと認められる。(〔証拠略〕)

(4) 白壁整形外科初診料 六、四〇〇円 (〔証拠略〕)

(四)  運転免許証申請手数料

原告明は、本件事故による受傷のため自動車運転免許証の有効期間の更新を受けることができなかつたので、新たに運転免許証を取得するため、申請手数料三、七〇〇円の支払を要した。(〔証拠略〕)

(五)  原告大石の人夫賃損害

〔証拠略〕によれば、原告明の妻である原告チヅルは原告明の前記入院期間中その付添看護をなしたこと、そこで原告チヅルの母(原告大石の妻)が昭和四二年九月三日から同年一〇月二九日まで原告明の子(四才)の看護にあたり、そのため、農業を営んでいる原告大石は農繁期であつたところから、右期間中訴外山田昌枝を一日一、五〇〇円の約で雇入れ、同女に合計八五、五〇〇円を支払つたことが認められる。

ところで、右事実に基づけば、原告大石の右支出は、原告明に付添看護を要したことから生じたものと認められるが、付添看護を要したことによる損害は、受傷者である原告明もしくは直接付添看護した原告チヅルが付添看護料相当額において生ずるのが通常と解されるので、原告大石の損害について、他にこれを求める方法がないなど特段の事情の認められない本件では、原告明もしくはチヅルが賠償を求め得べき右付添看護料の他には原告明の付添看護による損害を認めることができない。つまり原告大石の右支出は本件事故と相当な因果関係がないものと言うべきで、もしこれを認めるとすれば損害が次々と拡大されるおそれがあるからである。

(六)  精神的損害(慰謝料)

(1) 原告明の受けた前認定の如き傷害および後遺症の部位、程度、および治療の経過その他本件全証拠によつて認められる諸般の事情を斟酌すると、原告明に対する慰謝料は一、五〇〇、〇〇〇円をもつて相当と認める。

(2) 原告チヅル、同大石の慰謝料に対する判断

前記の如く原告チヅルは原告明の妻、原告大石は原告チヅルの父であることが認められるが、原告チヅルが本件事故による前示の如き原告明の受傷および後遺症により同原告が生命を害された場合にも比肩すべき、または右場合に比して著しく劣らない程度の精神的苦痛を受けた事実、また原告大石が原告チヅルが生命を害された場合にも比肩すべき、または右場合に比して著しく劣らない程度の精神的苦痛を受けた事実をいずれも認めるに足りる証拠はないので、原告チヅル、同大石の慰謝料請求は理由がないものと言うべきである。

(七)  (ロ)車破損による損害

〔証拠略〕によれば、原告明は昭和三九年、パブリカ六四年式の(ロ)車を新車として約四五七、〇〇〇円で買入れ、本件事故当時までの走行キロメートル数は約三二、〇七五キロメートルであつたこと、本件事故によつて(ロ)車は大破し、その修理の見積り価額は二七七、五八五円であつたが、同原告は(ロ)車をスクラップとして売却したことが認められる。ところで、本件事故直前の(ロ)車の時価は約二五〇、〇〇〇円である旨の原告明の、ならびに右時価は一二ないし一三〇、〇〇〇円である旨の被告寅松組代表者の各本人尋問の結果部分はいずれも容易に措信しがたいので、会計学上および税法上一般に採用されている固定資産の減価償却額の計算方法で、わが国税法上採用され、任意選択を許されている定額法と定率法のうち、自動車の如く使用年数に依つてその価格が急落するものについては定率法を適用する方が妥当と考えられるから、定率法により(ロ)車の事故直前の価格を算定すると、その償却率は「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」により〇・三一九と定められているので、

一年目の償却額=四五七、〇〇〇×〇・三一九=一四五、七八三円

二年目の償却額=(四五七、〇〇〇-一四五、七八三)×〇・三一九=九九、二七八円

三年目の償却額=(四五七、〇〇〇-一四五、七八三-九九、二七八)×〇・三一九=六七、六〇八円

となり、

時価=四五七、〇〇〇-(一四五、七八三+九九、二七八+六七、六〇八)=一四四、三三一円

となる。

そこで、(ロ)車の修理費用は、同車の本件事故直前における価額から事故後これを処分して取得した価額を控除した額を超えることが明らかであるから、(ロ)車の破損による損害は、同車の右の如き事故前後の価額の差額の限度で生じたものと認めるのが相当であるところ、前記の如き(ロ)車の種類、従前の走行キロメートル数、破損の程度ならびに弁論の全趣旨からすれば、(ロ)車の事故後の処分価額は六〇、〇〇〇円を超えないものと認められる。従つて、(ロ)車の事故前の時価一四四、三三一円から処分価額六〇、〇〇〇円を控除した差額八四、三三一円が原告明の受けた損害額をほぼ適格に表示しているものというべく、同原告は右同額の損害を受けたものと認められる。

(八)  弁護士費用

(1) 原告明の弁護士費用

〔証拠略〕によれば、被告らは原告明の賠償請求に応じなかつたため、法律的素養のない原告明は本訴代理人である大阪弁護士会所属弁護士長尾悟に対し本訴の提起を委任し、勝訴の場合に成功報酬を支払うことを約したことが認められる。そこで、右認定の事実および事案の難易、請求額、認容すべき前記の損害額ならびに当裁判所に顕著な日本弁護士連合会および大阪弁護士会各報酬規定に照らすと、原告明が、被告らに対し連帯して、本件事故に基づく弁護士費用として賠償を求め得べき額は一五〇、〇〇〇円と認めるのが相当である。

(2) 原告チヅル、同大石の弁護士費用

〔証拠略〕によれば、右原告両名は本訴代理人弁護士長尾悟に対し本訴追行を委任したことが認められるけれども、前示の如く右原告両名の被告らに対する賠償請求は理由がないから、本訴を提起ならびに追行する必要と根拠が無かつたことに帰するので、右原告両名の弁護士費用の請求は失当として棄却せざるを得ない。

三、過失相殺

〔証拠略〕によれば、原告明は(イ)車が中央線を超えてくるのを発見した後に左転把および急停止の措置を採らなかつたことが認められるけれども、前示一(二)(1)の如き本件事故の状況に基づけば、本件事故は(イ)車が(ロ)車と約一〇メートルの距離に接近した時急に右方((イ)車の進行方向に向つて)へ転把し中央線を超えて(ロ)車の進路上に進出してきたため生じたものと認められるので、原告明が中央線を超えてくる(イ)車を発見後急転把および急停止の措置を尽したとしても、本件事故の発生を回避することができたとはとうてい考えることはできず、従つて原告明の左転把および急停止の不作為と本件事故との間に因果関係を認めがたく、他に原告明に過失相殺に供すべき過失があつたことを認めるに足りる証拠はない。

四、弁済

被告らは原告明に対し、入院の際入院治療費五〇、〇〇〇円、その後氷代六五、〇〇〇円を支払つた。(〔証拠略〕)

五、自賠保険金の充当

第二の三(1)の内金四七六、八〇〇円は原告明の第五の二(三)(1)の入院治療費に、第二の三(1)の残金二三、二〇〇円と同(2)の六五〇、〇〇〇円は同原告の第五の二(三)(1)(ただし右四の六五、〇〇〇円を控除した残額)、(3)(4)、(四)(六)(1)の各損害にその額に応じ按分充当されたものと認められる。(〔証拠略〕)

六、結論

以上により、原告明の本訴請求は、同原告が被告ら各自に対し、右二(三)(1)ないし(4)(四)(六)(1)(七)および(八)(1)の合計金二、三二一、七六一円から右四および五の合計金一、二六五、〇〇〇円を控除した残額一、〇五六、七六一円(ただし充当関係は右四および五のとおり)、および右二(八)(1)を除く金九〇六、七六一円に対する本件訴状が送達された翌日である被告寅松組に対しては昭和四三年一月三〇日、被告高砂に対しては同年一月二八日からそれぞれ支払ずみまで民事法定利率の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で正当として認容し、原告明のその余の請求および原告チヅルならびに原告大石の本訴請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行ならびに同免脱の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 本井巽 藤本清 大喜多啓光)

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